太中 ※太|宰がマフィアに戻った特殊設定有
包帯の上からでも判る程くっきりと噛み跡をつけ、時折苦しそうに吐息を漏らす。噛んで来るだけでは飽き足らず、今回は"熱ィ"と艶っぽく嘆く。何処か可笑しい。中也の手は冷え切っていることがザラに有るのに、如何してこンなにも、熱くて熱くて、溶けて仕舞いそうなんだろう。ごくり、と唾を飲み込む。飲み込めば中也の舌が項により当たって来て、此方まで声が上がりそうになる。
「熱いなら其処らで体温でも下げるかい? 一緒に冷たい処へ這入ッても良いし、其の儘で居られると私――」
ハッとして口をついて飛び出した言葉に顔を顰める。
(私が、中也とだって? 莫迦な――)
思考を切り替えて、凭れ掛かる中也を背負って歩き出す。屹度嫌がらせだ。幾ら汚濁中に意識が有るからと云って、限度と云うものが存在する。毎度毎度振り回されていては此方とて格好が付かない。溜息を吐きたく成るのを堪えていると、中也が講義の声を上げて来た。
「……死ぬなら、手前とが良い……何処へも行くな、莫迦太宰の阿呆」
甘ったるい砂糖を舐めるような、甘美にも程が有る、耽美な夢を魅せられている気分にさせる中也の甘えた声。眠りこける子供のようで、下らない欲望に抗っている自分自身が滑稽に思えて来る。
背負った所為で中也の唇が私の耳朶に当たって、吐息が其の儘私の耳に掛かる。脳味噌が溶ける錯覚に陥落(おと)されて仕舞う。
「……あのね中也、私が苦しいの嫌いだッて知ッてて遣ッてるでしょ…… 苦しさに藻掻くのは、残念ながら私の性ではないのだよ? はァ、そろそろ弁えて欲しいよ、限界……ッ」
脳裏に過ぎる扇情的な色香が漂う光景も、だらしなく求める姿も、私だけを見つめる双つの蒼も、総ては君の所為で。意識の片隅で屹度君は北叟笑んでいるだろうし、負けた気がして恨めしく成る。
「……ハッ、絆されてやンの、糞太宰……だッたら、いッそ、"破壊(こわ)しちまえよ"」
脳内に張り巡らされた糸の数々が――絡まって、解れることなく絡まり合っていたのに―― ハッキリと音を立てて 、狗に喰い千切られる。之だ。之を私は恐れていた。錯覚だとか光景だとか、悩まされていた其れらが煩悩に思えて、目の前に靄が掛かっていたのに、此の何時まで経っても飼い慣らされない狗何かに、至極容易に。
(嗚呼、もう――!)
「――今日だけは君の戯言を聞いてあげるよ、中也。……如何やら、私に壊されたいみたいだし? 折角だ、願いを叶えてあげなくちゃ。今日は何時もより頑張ッたのだし、"汚濁"にも感謝してあげなきゃね。……憶えてないだなンて云わせやしないよ」
(この後滅茶苦茶イチャついた)
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