太中  ※太|宰がマフィアに戻った特殊設定有

「奴は意思を持ッた化物だ」


"絶対に檻から出すンじゃねェぞ"


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語られていない秘密が有るのだけれど、聞いていくかい?


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 嘗て私たちの異能には必ず意思があるとされてきた。私の異能を除く全ての異能に云えることなのだけれど、羅生門や汚れつちまつた悲しみにを始め、細雪や君死給勿も、必ず何らかの意思で発動していると云う噂。興味深いけれど、所詮噂は噂。
 そして意思を受け継ぐ異能力者は、制御することにより生き物のように蠢く異能に支配されずに済む。探偵社だろうがマフィアだろうが等しく云える。力に呑まれずに制御できれば一人前だけれど、例外が存在する。
 其れは云わずもがな、「汚濁」――然う、本人が死に急ぐと云っても過言ではない、死ぬ迄暴れ続ける異能の発展版だ。
 扨、話を戻そう。


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 若しも本当に意思があるのだとすれば、汚濁形態の中也に意思が有れば。こンなに面白いことに成ッていたのかもしれないよ――?


━━━━━━━━━━━━━━  mafia in D


「態々隠すことないのに」
「呑気に"アレ"を傍観しときながら良く云うぜ」
 "良いからさッさとしろ"と急かす中也――膝を地についている状態――の肩を抱き抱えて立ち上がる。汚濁使用後でぐったりしている中也は、何時もより幾らか重量が増しているように感じる。然し何処か軽々としていて、何かが抜け落ちているように感じる。何時もいつも、中也は異能を使った後は――汚濁でも然うじゃなくても――焦点の合わない瞳で見つめて来たり、処構わず私の首に両腕を回して来て、接吻をせがむ。何度私が止めろと云えど、中也には届いていないようで、疲れきった声で歯向かって来る。然う云う時に優しく甘やかして仕舞う私も私なのだけれど。
 兎も角、今日の中也も、アレ――汚濁――と形容した其れに打ちひしがれた様子で、ずるずると脚を引きずりながら歩き始める。異能の影響にしては幾らか訳が違う。脳裏を横切る邪な感情に勘違いだと蓋をして、疲れきった相棒を勞るのも私の仕事だと割り切って、重い重い中也に、声を掛ける。
「傍観してなけりゃ君を止められないでしょ。と云うか中也、私の首元に噛みつかないで、痛い」
 私が考え事をしている間に、引き摺られながら中也は、私の首元に――項の辺り――に絶えず甘噛みし続けている。甘噛みと云う位だから、優しく歯が立てられる程度だと思われがちだけれど、存外中也は違う。
「……あ? 良いだろ、之位……んッ、ッは、熱ィ、」

 包帯の上からでも判る程くっきりと噛み跡をつけ、時折苦しそうに吐息を漏らす。噛んで来るだけでは飽き足らず、今回は"熱ィ"と艶っぽく嘆く。何処か可笑しい。中也の手は冷え切っていることがザラに有るのに、如何してこンなにも、熱くて熱くて、溶けて仕舞いそうなんだろう。ごくり、と唾を飲み込む。飲み込めば中也の舌が項により当たって来て、此方まで声が上がりそうになる。


「熱いなら其処らで体温でも下げるかい? 一緒に冷たい処へ這入ッても良いし、其の儘で居られると私――」


 ハッとして口をついて飛び出した言葉に顔を顰める。

 (私が、中也とだって? 莫迦な――)

 思考を切り替えて、凭れ掛かる中也を背負って歩き出す。屹度嫌がらせだ。幾ら汚濁中に意識が有るからと云って、限度と云うものが存在する。毎度毎度振り回されていては此方とて格好が付かない。溜息を吐きたく成るのを堪えていると、中也が講義の声を上げて来た。


「……死ぬなら、手前とが良い……何処へも行くな、莫迦太宰の阿呆」


  甘ったるい砂糖を舐めるような、甘美にも程が有る、耽美な夢を魅せられている気分にさせる中也の甘えた声。眠りこける子供のようで、下らない欲望に抗っている自分自身が滑稽に思えて来る。

 背負った所為で中也の唇が私の耳朶に当たって、吐息が其の儘私の耳に掛かる。脳味噌が溶ける錯覚に陥落(おと)されて仕舞う。


「……あのね中也、私が苦しいの嫌いだッて知ッてて遣ッてるでしょ…… 苦しさに藻掻くのは、残念ながら私の性ではないのだよ?  はァ、そろそろ弁えて欲しいよ、限界……ッ」


 脳裏に過ぎる扇情的な色香が漂う光景も、だらしなく求める姿も、私だけを見つめる双つの蒼も、総ては君の所為で。意識の片隅で屹度君は北叟笑んでいるだろうし、負けた気がして恨めしく成る。


「……ハッ、絆されてやンの、糞太宰……だッたら、いッそ、"破壊(こわ)しちまえよ"」


 脳内に張り巡らされた糸の数々が――絡まって、解れることなく絡まり合っていたのに―― ハッキリと音を立てて 、狗に喰い千切られる。之だ。之を私は恐れていた。錯覚だとか光景だとか、悩まされていた其れらが煩悩に思えて、目の前に靄が掛かっていたのに、此の何時まで経っても飼い慣らされない狗何かに、至極容易に。


(嗚呼、もう――!)


「――今日だけは君の戯言を聞いてあげるよ、中也。……如何やら、私に壊されたいみたいだし? 折角だ、願いを叶えてあげなくちゃ。今日は何時もより頑張ッたのだし、"汚濁"にも感謝してあげなきゃね。……憶えてないだなンて云わせやしないよ」


(この後滅茶苦茶イチャついた)

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