書き納め 中太


お人好しな帽子君が、愛らしい誰かさんを自分のモノだと信じて、
そんな欲張りな自分に嫌気が差すそういう話です()()

※ショタくらいの年齢です



「矢っ張り載るならさ、報告書の戦死者の名簿だよね! 死に触れずに事実だけを無機質に伝える実に私にそぐわった其れだと思うよ。良し、今から小さな事件でも起こそうか」
 瞳を見開き、松葉杖を跳ね除けて立ち上がった太宰は、痛んでいる左足を諸共せず肩を貸そうとしていた俺の腕にバランスを崩しながら縋り付いた。一見すると莫迦な挙動に見えるかもしれないが、幾度となく続いた所為で、流石の俺でも慣れきってしまったと云うのが本当のところだ。
 其れはさて置き、俺に掴まりながら身動き一つも満足に取れやしない太宰を右の片腕で抱きかかえながら、ぽそりと俺は太宰にだけ聞こえるように零した。
「起こすのは勝手だが、合理的が主食の手前には副食には成らねェんじゃねェか?」
 「わ、もう、止めてよ気持ち悪い!」等と揶揄しているにしては、満更でもなさ気な太宰の細過ぎる腰に優しく触れ、意図的に腰周りに指を這わせれば、俄にいやらしい、甘めの声が上がった。
「だ、だからさ……んっ、もうっ、き……気持ち、い……」
 普段の低めの声を微塵も感じさせない上擦った声に、僅かながらいじらしささえ感じていると、身体を震わせながら足をばたつかせていた所為で巻いていた包帯が解れ、たらりと俺の首筋に垂れているのが見て取れた。すかさず包帯へと伸ばしかけた左手を太宰の左足へと方向を変え、何の躊躇いもなく一思いに引っ叩いた。今度こそ応えたのか、「痛っ、痛いじゃァないか、もう!」と云う言葉以外罵倒を浴びせることはなく、大人しく抱きかかえられる太宰に、俺は声を出さずにほくそ笑んだ。
 俺の足取りが軽く成ったのを良いことに、太宰は拗ねた心地で呟いた。
「──然う遣って、私のことを中也は邪魔するんだね」
 たった一言だけでも、此奴の、悔しさにも似た其れは、太宰自身の心の奥底に良くて枷、悪くて蟠りとして残留するのかと思うと、して遣ったりな気分に成り得るのはもう目に見えている。そんな俺の様子を察しているのか否か、太宰は漸く諦めたように一息吐いた。
「死にたいって云えば云う程、私に執着するんだもんね。中也みたいな偽善者、私大っ嫌い」
 早く死んじゃえば良いのにとだけ付け加え、緩りと両の眼を太宰は伏せた。直ぐに意識を手放す此奴は、大して褒められはしない其れを投げ出すだけ投げ出し、後には儚さと物狂おしさを遺して独りさっさと消え失せて終える傍迷惑な存在だ。ならば此奴の褌を締め直せば如何にでも成りそうな案件ではある。俺が然うしないのは、心の片隅に疚しい、蟠りが寧ろ俺の方に残っているからかもしれないのだ。







 ──嗚呼、とばっちりも良いところだなァ、御姫様?









歯車が廻る。からり、からり。

誰かの旋律と共に、艶めかしく、揺れるように。

からり、からり。

奏でられる旋律は、韻を微かに踏んでいて。

心にそっと訴え掛ける韻の一つゝは、




















今は一体、誰の手元──?

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